川口隆夫ディレクション企画 「舞踏 ある視点」
生西康典『棒ダチ 私だけが長生きするように』

『棒ダチ 私だけが長生きするように』(約59分)

  1. 微細な音の演出がありますので、ヘッドホンでの視聴をおすすめいたします


BUTOHスナック(約45分)




音や空間に注目した独自の演出で知られる生西康典が、土方巽のテキストを演劇作品化。「病める舞姫」と「慈悲心鳥がバサバサと骨の羽を拡げてくる」の言葉が声となり、演者の身体を通して、地下空間に響き渡ります。

演出家の生西康典が、土方巽のテキストを演劇作品化。2人の演者はほとんど動かずに土方の言葉を発し、それらの言葉が地下空間を震わせていきます。静寂、言葉、電車の走行音をはじめとした空間内の音。そのなかで震える身体。その揺らぎが見る者に伝わり、それぞれの異なる経験、あたらしい物語を生み出していきます。本作では、その「揺らぎ」を映像作家の掛川康典が映像と音響で丹念にすくい取っています。

生西康典と参加アーティストについて

生西康典は1990年台半ば頃から映像作家、VJとして活動し、田名網敬一や大竹伸朗などアーティストと映像作品を制作。また99年から3年連続でVJとしてロッテルダム国際映画祭に招聘され参加しています。2000年代からは映像インスタレーションの制作をはじめ、山口小夜子とは03年から山口が急逝する07年まで舞、朗読、映像による舞台作品を掛川康典とともに継続して制作しました。08年からは演劇、ダンスなどの演出も手がけ、10年には恵比寿映像祭において、多くの人たちと協同して、声や歌によるサウンド・インスタレーション『おかえりなさい、うた Dusty Voices , Sound of Stars』を制作。以降は舞台作品においても、インスタレーション作品においても、その空間に確かな「いまここ」を探し出し提示しています。13年から美学校で実作講座「演劇 似て非なるもの」講師。「生西さんの演劇空間の作り方に刺激されてきた」と言うTRUアーティスティック・ディレクターの川口隆夫の依頼で、生西は土方巽(1928~86)のテキストによる演劇作品を演出します。

出演はブルーノプロデュース主宰、ユニットy/nとしても活動する演出家・俳優の橋本清、美学校の講座の2018年度受講生で現在演劇活動を行なう冨田学のふたりです。

CM、MV、ドキュメンタリー、舞台映像演出など多くの作品を手がける映像作家の掛川康典が映像監督を務めています。

 

『棒ダチ 私だけが長生きするように』について

この作品は2つの場で構成されています。それぞれの場で演者が語るテキストは、まず『病める舞姫』の冒頭部分、そして『慈悲心鳥がバサバサと骨の羽を拡げてくる』です。

前者は1983年に出版された、土方巽の自叙伝ともよばれる文集です。後者は1976年に土方が語った言葉を書き起こした音源をもとにしたLPレコードが、土方の葬儀の際に香典返しとして配布されました(書籍化もされています)。今回は出演者の冨田が音源から聞き書きしたテキストを用いています。

意味を求めるはしから言葉が逃げていくような、混沌と不可解さに満ちた土方のテキストを、ふたりが声にしていく。前半では冨田が椅子に座り『病める舞姫』を発話し、橋本は「棒ダチ」状態で立ち、時折言葉にならない声を漏らしながら、土方のテキスト、そしてそのイメージに反応していきます。

ワンシーン・ワンカット撮影による映像のなかで時折聞こえてくる音は、主に撮影場所である旧博物館動物園駅の下を通る電車の通過音です。この地下空間では、地上の音も聞こえてくるのですが、演者の身体は土方のテキストと同時にそれらの音にも反応し、瞬き、震え、揺らぎます。ほとんど動いていないように見えますが、ふたりは反応しあい、変化し続けています。その変化をあまねくご覧いただくために、生西はヘッドフォンでの視聴を推奨しています。

アーティストステートメント

ねじくれて幾重にもイメージが折り重ねられた『病める舞姫』を一度も読み通せたことがない。俳優の身体を通して読み進めることが出来ないかと考えた。もうひとつの目論見は、俳優の身体に特定の個人のものだけではない“人間の存在”とでも呼ぶしかないものを朧げにでも映すことができないかということ。これは2018年に亡くなった首くくり栲象の庭劇場に足繁く通っている間に考えていたことでもある。庭では首を吊るというある意味では劇的とも受け取れる瞬間はあったが、ほとんどの時間は年老いた男が小さな庭をただゆっくりと歩いているだけだった。その何か具体的なものを現そうとはしていない身体にこそ長大な劇のクライマックスを目撃しているかのような、演者個人を超えた人間の存在が宿っていたように思う。今回、俳優は自身の身体を余白にして、土方のテキストを通すスクリーンたり得るのか。また観客はそこから何を読み取れるのか。演出家・俳優の橋本清、演者・冨田学と試みたい。

生西康典

アーティスト

Photo by 高木由利子

生西康典|Yasunori Ikunishi

1990年代中頃から映像作家、VJとして活動。山口小夜子と舞、朗読、映像による舞台作品(03~07年)を手掛けた後、10年代からは映像よりも空間で観客と協同で起こすことに興味を移し、音によるインスタレーション『おかえりなさい、うた』(10年/東京都写真美術館)を制作。現在はインスタレーション、舞台作品の演出を行っている。主な舞台作品に、首くくり栲象との『奇蹟の園』(17年)、その日集まった人たちとその場でつくり、その日の夜に公演する『日々の公演』(18年)。13年より、美学校「演劇 似て非なるもの」の講師を務める。

Photo by 三上ナツ子

橋本清|Kiyoshi Hashimoto

1988年生まれ。演出家/俳優。日本大学芸術学部演劇学科演出コース卒業。2007年、在学中にブルーノプロデュースを立ち上げ。2012年〜2015年、坂あがりスカラシップ対象者。近年の演出作品に青年団リンク キュイ『景観の邪魔』(2019年)、青年団若手自主企画 櫻内企画『マッチ売りの少女』(2020年)。出演作に小田尚稔の演劇『是でいいのだ』(2016年〜2021年)。2019年からは批評家・ドラマトゥルクの山﨑健太とのユニットy/nの活動を開始。作品に『カミングアウトレッスン』(2020年)、『セックス/ワーク/アート』(2021年)。

冨田学|Manabu Tomita

1981年生。2018年美学校「実作講座 演劇 似て非なるもの」6期受講。以後演劇をしたりしている。事務員。    

掛川康典|Yasunori Kakegawa

モデレーター

Photo by 宮川舞子

松岡大|Dai Matsuoka

2005年より山海塾に舞踏手として参加。『金柑少年』『とばり』『卵熱』『ARC』などの主要作品に出演中。11年より、街を歩きながらミュージシャンとダンサーによるパフォーマンスを鑑賞する「LAND FES」を主催。18年より小田原市にて、障がいのある人ない人共にダンスを創る「スクランブル・ダンスプロジェクト」で講師を務める。様々な舞踏家によるオンラインレッスンプラットフォーム「BUTOH CHOREO LAB」主宰。

Credit

テキスト

土方巽「病める舞姫」「慈悲心鳥がバサバサと骨の羽を拡げてくる」より

出演

橋本清(ブルーノプロデュース、y/n)

冨田学

構成・演出

生西康典

映像監督

掛川康典

録音

梅原徹

撮影

木村雅章

綾野文麿

撮影協力

NPO法人LAND FES

酒本凌

玉那覇優太

編集協力

仁山裕斗

酒本凌

撮影コーディネート

松岡大

タイトルデザイン

鈴木健太

協力

「蒙古斑革命」復活プロジェクト

ブルーノプロデュース

綾野文麿

石田ミヲ

舞台監督

河内崇

照明

森規幸(balance,inc.DESIGN)

小駒豪

美術

小駒豪

音響協力

國府田典明

スチール撮影

中川達彦

和田翼

英語字幕

川口隆夫、本田舞

主催

東京都

公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京

企画運営

NPO法人ダンスアーカイヴ構想