ウィリアム・クラインとの会話 2005年10月

2005年10月、大野一雄舞踏研究所とBankART1929の主催により開催した大野一雄フェスティバル2005の展示プログラムで、ウィリアム・クラインのオリジナルプリント2点を展示した。併せて冊子「大野一雄と土方巽の60年代」を発行した。このインタビューは、冊子編集のために、大野一雄舞踏研究所事務局長溝端俊夫が、パリ在住のウィリアム・クラインに電話で話を聞き、原稿に起こしたものである。今回TRUエキシビションの街歩き型AR「ダンス・ハプニング・トゥデイ」で録音データを公開している。

大野一雄と土方巽の写真のことで前にお電話しました。

使っていいって言ったよ。

当時のことで話を聞きたくて。

どうぞ。

なぜ彼らの写真を撮ろうと?

ちょっと待って。電話機換えるから。

もしもし。

はい。

どういう経緯でお知り合いに?

日本には、ちょっとした出版社の仕事で行ったんだけど、僕は結構有名だったね。自分では知らなかったけど、若い写真家にずいぶん影響を与えていたらしい。新聞にもいろいろ出た。一面に出たこともあった。それで彼らの方から連絡があった。

彼らから?

そう。写真を撮って貰えないかって。稽古場に来て撮ってくれっていうわけ。それで行ったんだけど、あまり面白くない。いや、踊りは良いんだけど。で、なにか違うことやろうって。街中に出たら面白いんじゃないかってことになった。おかしなことに、それが出発の前日。とにかく、最後に丸1日かけた。

君、どのくらい写真見たか知らないけど、地下鉄で撮ったのがある。銀座。あと裏通り。ぜんぶ即興、楽しかったよ。彼らも気に入ったみたいで協力してくれた。たぶん最初の路上ハプニングだったんじゃないか。ハプニングの時代だった。東京での路上ダンスパフォーマンスは初めてだったろうね。とにかく楽しかった。東京というところは、ニューヨークと違う。誰も反応しないんだ。じぃーっと見てる。こちらはやりたい放題。地下鉄に入ったときも誰も何も言わない。何でも出来た。たぶん、そうだな、200カットくらい撮った。

彼らのことを知ってましたか?

いや。日本のことをあまり知らなかったし、日本の踊りのことなんて、まったく。

踊りはどうでしたか?

すごかったよ。

あれから、彼らが日本の前衛舞踊のトップランナーになったのはご存じですか?

舞踏は見たことない。ヨーロッパではそんなに機会もないし。だけどこういう話がある。ジャン・バビレの映画を作った。フランスの有名なダンサー。68歳でもう一度踊り始めた。僕はプロデューサーでダンスに興味があった。バビレをずっと撮りたいと思っていた。彼もそうしたかったんだ。クラシックバレエにはあまり関心ないけど、バビレはすばらしい男だ。一目惚れしたね。で、映画を作ることになった。あるとき、この68歳のダンサーと大野一雄が共演できたら良いなという話になって、ほんとに一場面でも撮れたら良かったけど、実現しなかった。お金がなくて。

10年くらい前のことですね。覚えてますよ。お電話頂いたのを。

大野一雄がヨーロッパに何しに来たのか忘れたけど。ジュリア・ロバーツが出る映画じゃないんだから、お金ないよ。で、実現できなかった。

大野一雄を見たのは、60年の東京でだけですね。

そう、で、映画も撮れなかった。あの路上だけ。彼がドレスを着た写真を撮った。ジャン・ジュネの「花のノートルダム」に触発されたと言ってたね。その写真をジュネに見せた。

えぇっ?

ジュネとは友だちなんだ。ある晩家に来た。日本で写真を撮ったけど、この人は、あなたの本にすごく影響を受けたって言ってたよって。ジュネは言うんだ、よくわかんないなって。

そうですか。

別世界の人だから。踊りのことは何も知らなかったと思う。

「TOKYO」の写真集の冒頭に使ったのはなぜですか?

本のレイアウトは、フィーリングでやる。あのとき、もう長く写真をやってた。写真を始めたのは1955年。ニューヨークの写真集を出した。自分がここで写真を撮ると言うこと、その場所について知らない、言葉もしゃべれない、カルチャーもほとんど知らない。そういう人間が写真を撮ると言うことが、どういう意味を持てるんだろうって、ずっと考えていた。ニューヨークなら、自分の写真が何を意味してるかわかる。だけど東京では、実験なんだ。だから面白かった。日本人にとってどういう意味をもつかわからない。自分でも初めての体験。何も知らない場所で写真を撮る体験。

土方と大野が何を表現してるか理解できましたか?

いや。

じゃあ、感じただけ。

そう、感じただけ。

それはすごい。あなたの写真が彼らのやろうとしたことをいちばん明快にとらえていると思います。

僕はフィーリングで仕事するだけ。他にない。ところで、あんた誰?

大野一雄と20年以上仕事してます。

いま、彼いくつ。

99歳。

ほんとう?

10月27日が99歳のお祝いです。

そうなんだぁ

翌日の28日からフェスティバルを始めます。

彼ともう一度仕事できなかったのは残念だ。バビレは78歳。いわゆる舞踊家ではないんだな。すごくオリジナル。だから二人の共演を見たかったよ。さて、悪いけどもう時間だ。

どうもありがとう。日本に来られるご予定は?

旅嫌い。この間日本で個展をやった。見た?

いや、すいません。

なんだ、ファンじゃないな。

でも、本とかDVDはいろいろと見てます。

じゃあ、許す。

本当にありがとう。感謝します。

オーケー、グッバイ!

ウィリアム・クラインと妻のジャンヌ|東京の街角にて|1961年|撮影:遠藤平雄